昨日は<急傾斜地の家>の中間検査。工事中に若干、設計変更が生じたため(改正建築基準法下での)検査前の変更申請はちょっと手間でしたが、検査自体は今回もすんなり終了・・・指定確認検査機関からはA4版の検査済書に加えて左のようなシールを貰いました。
このシール、中間検査済シールとでも呼ぶんでしょうか、<高台の家>の際にも貰いましたが、以前(たぶん基準法改正前)にはなかったもの。
シールって事は現場に貼っとけ!という事なんだろうと、<高台の家>では現場の看板に貼っ付けましたが、昨日、スタッフが改めて確認したところでは、特に表示する義務などはないとの事。
なーんだ、「うちがちゃんと検査させてもろてますよってに」という検査機関側の宣伝みたいなものなのか、とスタッフと結論付けましたが・・・ちがうのかな?(^^)
さて、そんなこんなの中間検査も終わったところで、今回は構造の話、特に地盤関連の話の「おさらい」というか、このような斜面地での建築を考えておられる方々に多少は役に立つような話をしてみたいと思います。
この計画地はいままで綴ってきたように敷地面積の約95%が斜面で、見た目こそスゴイものの、最大斜度で約45度、平均斜度では約30度ですから「急傾斜」という言葉から受ける印象からすれば緩やかな感じとは思います・・・なにせ、建築雑誌などでは平均斜度で45度・60度を超えるような敷地に建つ住宅も紹介されたりしている昨今ですから。
ではなぜ<急傾斜地の家>と名付けたかといえば、この地域が「急傾斜地崩壊危険区域」に指定されていたから・・・そのまんまやん。(^^)安易
でも実際、同じ町内では、かつて工事中に地盤崩壊(崖崩れ)に至った事例もあって、そんな話を聞くと建築物自体の構造だけでなく、地盤との関連性を普段以上に重視した設計を行わなければ!と気を引き締められる敷地で、<急傾斜地の家>と呼ぶのもまんざらではない、と考えたわけです。
2本の標準貫入試験(ボーリング調査)の結果と周辺の地質データから、支持地盤となりえる地層(N値=40〜50 設計地耐力454kN/m² 図1で青の部分)は上部の道路面から5〜6m位置すると推定(※文末参照)され、それより上層はほとんどが軟弱な地層(N値=5以下 図1で緑の部分)と判明しました。
この結果を受けて、ここからはある程度直感を働かせて設計に着手するわけですが、緑の部分を掘削して擁壁を設け平坦地を切り出すにしても、逆に斜面下手に擁壁を建ち上げ緑の部分を盛土して地盤改良を施しながら平坦地を造成するにしても、現時点で安定している傾斜地盤を大きく改変する事には変わりなく、新たに加わるそれらの要素によって地盤が不安定化する可能性が高いように考えられましたし、多大な造成工事により自ずと工事費も膨れ上がってしまいます。
そこで、できるだけ地盤面の形状を変えず安定性を損なわない現在の計画案を思いついたわけです。

図1 弾塑性有限要素法による斜面安定計算解析図 計画建築物挿入時概念図
具体的には図のように建築物を現況斜面地に約1/3埋設するような形で置く。
そうする事でRC造と木造の混構造からなる建物の重量は、掘削して取り除く土砂の重量とほぼ等しくなり、また支持層に掛かる荷重分布(圧力)は図の薄緑色の三角形部分を濃緑色三角形部分に置き換えた荷重分布に近いものになると、大まかながら計算できました。
このような計画で進めれば地盤の改変もほぼ最小限で済み、安定性をさほど損なうことも無く、かつ(ここが重要ですが)支持地盤に直接基礎を置くことができる・・・スタートはほぼ瞬時の直感からだけでしたが、計画案の合理性が概算ながら裏付けられたわけです。
もちろん建築は構造の合理性によってのみ成立するわけでもなく、住まい手のご要望に沿った住み心地や機能性、そこから生み出だされる空間の質が重要なわけですから、その後の設計では若干の紆余曲折もありましたが、断面計画は終始一貫して変わる事なく最終案(実施設計図面)に至ったのでした。

図2 実施設計断面図
濃いグレーの部分がRC造となっている部分で、薄いグレーの部分が木造部分や仕上げの部分。
基礎の右手部分で基礎底が支持層にまで達しない部分では最終的に地中梁を設け、支持層に直接応力を伝えるようにしています。
また1階(道路面下)の左に突き出ている部分の底面も支持層に達していませんが、この部分は基礎ではなくただの床版。つまり1階の床は右手にキャンチレバー(片持ち梁)で持ち出しているだけでなく、左手の地中にもキャンチレバーで持ち出す構造となっていて、この計画でここも要となっているアイデアの一つです。
この断面計画に基づき、最終的に斜面安定解析を行った結果が下図。
計算は構造事務所に依頼しているので、私自身は計算方法などの詳細についてはよくわかりませんが、地滑りが起こる場合、土砂は円弧状に崩壊するという事実に基づき計算する(らしい)修正フェレニウス法によって得られた安全率が最小となる円弧での解析結果です。←実際の計算書はいろいろな円弧を想定して解析するもので何十ページにもなる分厚いもの。

図3 修正フェレニウス法による斜面安定解析 最小安全率となる円弧
結果は最小安全率、常時:1.77、地震時:1.00となり、判定基準、常時:1.5以上、地震時:1.0以上をかなりシビアな数値ながらも満たし・・・現在に至る、なのでした。
一言で斜面地といっても、接道の状態や敷地形状、周辺環境や地盤状況も違いますし、それらによる建築条件の変化の度合いは平坦地よりも遥かに大きいとは思います。
ですから、一概に切り土あるいは盛り土をして平坦地にするのは考えもの、とは思いませんが、斜面地での建築を考える場合、このようにできるだけ土地形質を改変せずに計画することはある意味、環境にも優しい建築手法です。
斜面地、特に高低差が5m以上にもなる敷地で建築を考えておられる方は、こんな話を参考に最小限の造成工事で建築のも一つの選択要素、と参考にしていただければ幸いです・・・そんな条件下で生まれる建築は必ず、無双の空間を持った建築になるはずです。
構造設計 森林経済工学研究所 玉田 豊 氏
斜面安定解析 明興コンサルタンツ 沼田 明樹 氏 図1・3は沼田氏作成によるものを転載
※ 5〜6m位置すると推定
標準貫入試験で得られる地層断面図はあくまでも推定として描かれたもの。
実際の工事ではその推定断面が正しいかどうかを確認する必要があるけで、それを調べて確認したのが6月20日の記事<掘ってます>だったのでした。↓
http://blog.kenchikusha.com/archives/50321684.html
