2005年11月24日

構造計算書

0201
姉歯建築設計事務所による構造計算書偽造事件。
構造計算、そして建築士・建築への信頼が大きく揺らぎ、波紋が大きく大きく広がっています。
同じ建築設計に携わるものとして、目が点になるというか、空いた口が塞がらないというか・・・なぜ、そんな偽造をしたのか、また検査機関はなぜその偽造を見逃してきたのか。
問題の底は深く広いようです。
今朝のニュースでは、構造計算書偽造建築物の施工を多く手掛け、姉歯氏を事業主や他の元請建築設計事務所にも紹介していたとされる木村建設が今月中にも裁判所に破産を申し立てると報じられていました。
今後、このような事態がどこまで広がって行くのか・・・今後の補償問題にも影響する問題で、日が経つごとにますます懸念は広がるばかりです。

動機がなんであるにせよ、偽造の根源、大元が姉歯氏によるものである事はおそらく間違いのない事でしょうけれども、でも、なぜ検査機関はその偽造に見抜けなかったのか。元請となった建築設計事務所や施工会社はその偽造に気付かなかったのか。

構造計算書私たちの事務所では、木造2階建ての住宅であればほとんどの場合、構造計画・設計も私が行っていますが、木造以外の構造や木造でも3階建て以上になると構造計画・設計を専門の構造設計事務所に依頼し、協働して設計を行っています。
右の写真は<苦楽園の家>の確認申請に添付した構造計算書ですが、この住宅は鉄骨造3階建てですので、構造計画は記事<構造設計>でも紹介した構造設計事務所兼技術支援会社の森林経済工学研究所と協働し、そこで作成してもらったものです。
現在、西宮市の建築指導課に確認申請中で、今頃はおそらく、ちょうど構造計算書のチェックが行われている頃、というところです。
鉄骨造3階建てとはいっても延べ面積25坪程度の小規模住宅ですから、事件で問題となっているような計算書と比べれば薄っぺらなもので、手計算部分半分、部材に働く応力のコンピューター解析が半分といった内容ですが、それでも全部で60ページほどの冊子にはなっています。
で、正直な話をすれば手計算の部分はまだしも、写真に写っているようなコンピュータ解析の数字の羅列の正誤は私にはわかりません。
ですから姉歯氏がやったように、この数字の羅列が途中で別の数字に置き換えられていたとしたら、たぶんそれを見破る事はできないと思います。
でも、こういった構造計算書はあくまでも過程の代物。結果は最終的に、計算に基づき作成された架構を表す図面や鉄骨の大きさ、コンクリートの梁の大きさや鉄筋の数が書き込まれた構造図面として表されます。
計算書の数字の羅列はわからない私も、図面となれば、そこに書かれた鉄筋の数などが今までの建築設計の中で培ってきた「経験値」から明らかに異なっていれば、すぐに「おやっ」と気付くことでしょう。
この「経験値」という一見アバウトそうな感覚、でも、これが実は構造計画だけでなく何事においても大切。と私は思っています。

今回の計算書偽造事件でも、それは同じ事。
いままでに無かったまったく新しい構造形式というのなら話は別ですが、偽造の舞台となった建築は、ニュース映像で見る限り、垂直に立った柱と水平の梁で荷重に耐えるラーメン構造という中規模以上の建築では最も一般的な構造形式。どう転んでも、まったく新しい構造のようには見えません。
建築物のタテヨコ比や平面計画で多少の違いは出るにせよ、10階建ての建築の1階柱の鉄筋数や地盤の強度に比例する基礎の大きさなどは、そう大きく「経験値」からズレるものではないはずです。
確認申請には計算書だけでなく、鉄筋の数を表した配筋図等ももちろん添付されています。
ですから、例え計算書の偽造を見抜けなかったとしても、必要な耐力の40%にも満たない少ない鉄筋の数が記された図面であれば、誰が見るにせよ、その「経験値」と照らせあわせれば、あきらかに鉄筋数が通常より少ない点に気付いたはずです。
それは検査機関で審査した人間だけではなく、元請の建築設計事務所の担当者にしろ施工会社の担当者にしろ、気付いていたはず。
それがチェックできないままに建てられたというわけですから、たまたま全ての事業で、関係各社全ての担当者が「経験値」を持たない「若手」でだった、さらに周りには指導にあたるべき経験豊富な人間もいなかった、という事なんでしょうか・・・そんなバカな話はないと思うのですが。

・・・問題の底は、はてしなく深く広い、私にはそう見える事件です。

この記事へのトラックバックURL

http://trackback.blogsys.jp/livedoor/cpiblog00793/50101912
この記事へのコメント
こ、怖いですね。{{{(+_+)}}}
身近に建築関係の知り合いがいなかったので、ここに来てみました。
これは関係者は薄々気がついていても、なんとかぎりぎりで基準に満たしてるかもって感じで、見ざる言わざる聞かざるの精神で、せっかくもらった仕事をやった。(うまく表現できない)
こんな素人の解釈では浅過ぎますか?
Posted by りょうじ at 2005年11月24日 17:44
りょうじさん、写真徒然の方にはよくコメントを頂いていますが、こちらのブログへコメントははじめてだったでしょうか。よろしく、です。

いま、仕事をしながら聞いていたラジオのニュースでは、姉歯氏は「鉄筋の料を減らすよう」と指示された業者の名前を三つ挙げたと言っていました。
その指示に強制的な意味合いがあったのかどうなのかまでは、ニュースからではわかりませんが、ほんとに事件の底は深いようですね。
Posted by masai at 2005年11月24日 19:03
嫌な事件ですね。。
どんな人が住むか分からないと「別にいいや…」となってしまうのでしょうか。
住まい手の顔が見えていると少しは違うのかもしれないなと思いました。一生懸命に同じ仕事をしている方々は複雑な気持ちだろうと想像してしまいます。
ウチの相方も仕事上、構造計算と無関係ではないので「相手を信頼するしかないんだよなぁ」とぼやいてました(^_^;)
Posted by keito at 2005年11月25日 12:05
嫌な事件というか、同じ一級建築士という立場からみると悲しい事件です。
今後さらに新しい事実関係が見えてくると私には思えますし、そうなった時、一般の方々が感じる信頼感の喪失はどこまで広がって行くのか・・・。まずは、いま業界に在る膿を徹底的に出す事、行為という表面の問題だけでなく、その温床となっている国交省・法制度まで含めた「建設業界」全体の問題点を、これを契機に徹底的に掘り下げて欲しい、そう思う事件です。
Posted by masai at 2005年11月25日 17:47
初めまして。
川崎市のと築2年のとあるマンションの管理組合理事をしております。
私が危惧しているのは、今、現実に建っているマンションというものそのものに対する社会の目です。とりあえず、耐震には問題ないとが分かっても、このマンションの価値は従来どおり維持できるものでしょうか?普通に考えると、このままではこれからマンションを買おうと思ったら、この事件以降つまり、2006年以降に確認申請をおこなったマンションにされてしまうと思います。これまでに建ったマンションはあきらかに不利ではないでしょうか?こういった風潮が、社会全体に広まるのを阻止する手段はないものでしょうか??そこで、少々伺いたいのですが、少なくとも、これから我々マンション住民が自分達の資産価値を維持していくために何かできることはないでしょうか?一級建築士のお立場から、何か所感をいただければと存じます。
Posted by 理事 at 2005年12月05日 13:44
理事さん、はじめまして。
お書きのようなお話は、なんらかの事件や事故が起こった際にはかならず起こる風評被害の一つなのかもしれませんね。
ただ私の場合、いままで分譲型集合住宅の設計を手掛けた事がありませんし、住まい手が暮らす場である住宅を資産価値という視点から設計を依頼された事も、また設計を考えた事もないので、正直、理事さんが気にかけておらる気持ちは私にはよくわかりません・・・自分たちがいま快適で居られるなら、それで良いのではないでしょうか。
Posted by masai at 2005年12月05日 19:51